吉見俊哉/テッサ・モーリス-スズキ『天皇とアメリカ』

天皇とアメリカ (集英社新書)

天皇とアメリカ (集英社新書)

20世紀においてアメリカは、ファシズム共産主義、圧政に対して自由と民主主義を守るという大義名分の下に、戦争を行ってきた。そのアメリカとの戦争で敗れた日本は戦後、日米安全保障条約の下でアメリカの自由主義陣営に組み込まれ、アメリカの軍事的傘の下で経済的繁栄を享受してきた。戦後日本の外交政策において、アメリカは疑いを挟むことができない指針として機能してきた。また日本の天皇は、アジア太平洋戦争においてその名の下にアジア諸国への侵略がなされたにも関わらず、日本国憲法においては国民統合の象徴とされ、現在日本人の大多数は天皇制を支持している。このようにアメリカと天皇はどちらも、戦後日本において疑いを挟みえない存在であったと言える。前者は自由と民主主義の盟主として、後者は日本の伝統を象徴する拠り所として。しかしアメリカは、多くの国民が神を信じ、日曜日の朝に教会で礼拝をする宗教的な国でもある。自由と民主主義の国アメリカが同時に宗教の国でもあることを、世界は9・11以後のアメリカの単独行動主義により思い知らされることになる。また天皇は、明治維新から現在に至るまで、その時代に即した政治的装置としても機能してきた。こうして見ると、「民主主義と自由の国アメリカ」ではなく「宗教の国アメリカ」、また「伝統文化としての天皇」ではなく「近代的装置としての天皇」という視点から見ることで従来見えなかったものが見えてくるかも知れない。このような問題意識から本書での対談は進められる。